2010年12月9日木曜日

日本国も日本国民も、民主党政権のためにあるのではない 社民党との連携は保身のみ

産経ニュース2010.12.9 02:57より
【櫻井よしこ 菅首相に申す】
  「国民はぶち切れている」


私利私欲、本末転倒とはこのことだ。菅直人首相が社民党の協力を得るために、武器輸出三原則の見直しを先送りすることにした
三原則見直しは「防衛計画の大綱」の見直しの柱のひとつで、北沢俊美防衛相がこだわってきた問題である。が、防衛相は、「せっかく成し遂げた政権交代をおろそかにすることはしない」「私も内閣の一員」だと述べ、社民党との連携、国会での数合わせを優先する首相の決断を積極的に支持した。


首相も防衛相も、一体何を勘違いしているのか。政治家も政党も国民と国家のためにある。日本国も日本国民も、民主党政権のためにあるのではないのだ。


そもそも社民党と民主党は、沖縄の普天間飛行場の移転問題で別れた。辺野古への移転を再確認する閣議決定を、「大義に反」する、「絶対に容認できない」として、当時閣僚だった社民党党首の福島瑞穂氏は署名を拒否した。結果、罷免され、連立から離脱した。
民主党の方針はあのときのままであり、両党が再び歩み寄る理由は全くない。にもかかわらず、歩み寄った。政権にとどまりたい、政権近くにいたいというさもしさに、両党は駆り立てられているのだ。


参議院で否決されても、衆議院で3分の2の議席を確保できれば、法案の成立は可能だ。その3分の2に不足している6議席を、社民党に埋め合わせてもらって生き延びようと菅首相は計算する。
社民党は衆議院で6名、参議院で4名だ。全体の1・5%にとどまるのは、国民が社民党を見限っているからだ。福島氏は菅首相に「私がぶち切れなくて済むようお願いします」と繰り返したそうだが、国民の見限った党の意見を容(い)れて、日本にとって岐路ともなる非常に重要な安全保障政策を変更することの愚を、首相は認識すべきであろう。


日本を取り巻く国際環境の厳しさを見よ。田久保忠衛氏はいまや世界が「中国の革命」に直面していることを指摘する。昨年7月、世界各国の中国大使を呼び戻して胡錦濤国家主席が行った在外使節会議での訓話では「韜光養晦(とうこうようかい)」、つまり低姿勢を保ち力を蓄える方針から、「積極有所作為」、成すべきことを積極的に成す方針への大転換が語られている。これを米外交評議会アジア研究担当ディレクター、エリザベス・エコノミーは「中国の革命」と呼ぶ。
能ある鷹(たか)は爪を隠す姿勢を変えて、もはや爪は隠さないと決意した中国は、国際社会の手法や制度に合わせることで国力を殺(そ)がれることを嫌い、自らが国際社会のルールメーカーになろうとしている。

たとえば、新幹線の事例に見られるように、中国は他国の知的財産権を侵害する。世界の知的財産権侵害の被害の8割は中国によると言われるが、反省とは反対に、彼らはもっとあからさまに世界の最先端技術や知識を中国式手法で取得しようとする。レアアースの輸出は大幅に減少させるが、中国で生産する企業には供給する、ただし、その企業には最先端技術の中国への移転が求められるという具合である。


国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)への出資も増やし、発言力を強め、国際金融においても中国の主張を押し通す戦略である。「中国の革命」は安全保障においてとりわけ深刻な影響を及ぼす。国際社会はすでに中国の対外強硬姿勢を、3月の北朝鮮による韓国の哨戒艦天安撃沈事件で痛感させられた。物的証拠にもかかわらず、中国は北朝鮮を擁護し、有事の際、北朝鮮に自国の影響力を及ぼし続ける道を確保する意図を見せた。いかなる他国の介入も許さず、その地域海域は軍事力をもって支配するという核心的利益の海として、南シナ海を宣言した。


4月、東シナ海で大規模軍事演習を行い、大艦隊の編成で沖縄本島と宮古島の間を航行し、日本に対して、以降、この種の軍事行動は常態化する、日本はそれに慣れよと発表した。9月の尖閣諸島沖の日本領海侵犯事件での横暴な振る舞いは、なお、記憶に生々しい。「中国の革命」の本質は経済的、政治的拡張とともに、軍事力を背景にした飽くなき拡大路線である。核心的利益は、いまはチベット、台湾、南シナ海について宣言されているが、必ず東シナ海にも日本海にも適用されるだろう。


日本に必要なのは、この強固な国家意思と日々強大化する軍事力で、中華式秩序を広げていこうとする中国に対して、それを超える日本の生き方と戦略を打ち出すことだ。しかし、菅首相にはそんな壮大な戦略を望むべくもない。だからこそ、せめて、日本を守るに足る力をつける努力をせよ。


中国は年々増額する国防費で空母建設に取りかかり、第5世代戦闘機も開発中だ。日本には、中国が大量に保有し、日本にも照準をあてる核ミサイルもない。空母建設はもちろん、第5世代戦闘機については、米国は日本に売る意思もなく、入手のめどもない。考えられる唯一の道は米欧のF35の開発に参加し、それを日本の第5世代戦闘機にすることだ。そのためには、今回、期待されていた武器輸出三原則の見直しが必要である。


だが、社民党と組む菅首相、首相に同調する北沢防衛相らの私益に駆られた政権維持のために、見直しは先延ばしされる。国益は打ち捨てられたのだ。このような政権に、国民は、汚い表現だが、すでに「ぶち切れて」いると、首相は認識せよ。




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